白湯を飲む習慣がついたのは去年の冬である。電気ケトルで沸かした湯を飲みながら、ふと「これ、鉄瓶で沸かしたら鉄分が摂れるんじゃないか」と思い当たった。hikaku-manである。南部鉄器とは岩手県の盛岡・奥州水沢で作られる鋳鉄製品の総称で、急須と鉄瓶はまったく別の道具だ。本記事では家庭用の10モデルを、用途・容量・対応熱源の3軸で比較する。
先に結論を言っておく。お茶を淹れたいなら内側ホーローの「急須」、白湯や湯沸かしで鉄分を狙うなら内面鋳肌の「鉄瓶」だ。ここを取り違えると、買ったあとで「鉄分が摂れない」「お茶が錆びくさい」のどちらかに突き当たる。売り場では両方まとめて「南部鉄器」と並んでいるので、区別がつかないまま買われている。
- 急須と鉄瓶は別物。急須は内側ホーロー加工で鉄が溶け出さない、鉄瓶は内面が鉄のままで湯に鉄分が移る。鉄分補給が目的なら鉄瓶一択
- 容量は1人=0.5〜0.7L、2〜4人=0.8〜1.2L、家族用=1.4L以上。鉄瓶は本体が重いので、満水時の総重量で考える
- IH対応は底が平らで直径12cm前後あるモデルに限られる。伝統的な丸底の鉄瓶は直火専用が多い
- 価格帯の主戦場は0.8〜2.5万円。1万円前後に急須と小型鉄瓶、1.5〜2.5万円に1L級の主力鉄瓶が集まる
- 手入れは「使ったら空焚きで水気を飛ばす」だけ。内側をタワシで擦る行為が最大の失敗で、湯垢という保護膜を削り落としてしまう
- フランス人のほうが先に気づいていた話
- 南部鉄器の選び方 — 決めるのは4つだけ
- 南部鉄器 急須・鉄瓶 比較一覧表10選
- 南部鉄器 急須・鉄瓶おすすめランキング10選
- 1位 岩鋳 鉄瓶兼用急須 5型新アラレ 0.65L(12822) — 1台で全部やる、が成立する
- 2位 及源 鉄瓶 東雲アラレ 1L — 注ぎ口の設計で選ぶ1台
- 3位 岩鋳 急須 5型アラレ 0.65L(12002) — 手入れゼロで一生使える割り切り
- 4位 及富(南部宝生堂)鉄瓶 平丸アラレ 黒 1.2L — 茶の湯釜の血統で1.2L
- 5位 池永鉄工 鉄瓶 tetu 1L — 1万円を切る入り口
- 6位 及源 小鉄瓶 八角 0.8L — 白湯を1人分だけ沸かす人へ
- 7位 岩鋳 鉄瓶 平丸アラレ 9型 1.1L — 直火専用と引き換えの正統
- 8位 及源 鉄瓶 たまご形 0.55L — 卓上に置ける最小の鉄瓶
- 9位 及源 急須 千草 0.55L — 2〜3人分をていねいに淹れる
- 10位 及富 鉄瓶 平丸アラレ 銅蓋 瑠璃 1.2L — 実用の外側にある1台
- よくある質問
- 今すぐ選ぶならこの3つ
フランス人のほうが先に気づいていた話
南部鉄器の海外評価が上がったきっかけは、1990年代にフランスの茶葉商社が岩鋳へ「カラフルな鉄瓶を作れないか」と持ちかけた件だとされる。黒一色が当たり前だった鋳物に、赤や緑のホーローを乗せた。それが欧州のティーサロンで売れた。
国内では長らく「実家の茶の間にある古いやつ」の扱いだったものが、逆輸入のかたちで再評価された構図である。伝統工芸あるあるだ。しかも当時の輸出向けは内側ホーローの急須で、鉄分が出ないタイプだった。海外で売れたのは「錆びない・手入れが要らない・色がきれい」という、鉄瓶の伝統とはほぼ逆の価値だったのが面白いところである。
そして今、日本で伸びているのは逆方向の需要だ。冬の白湯習慣と、鉄分不足への関心。この2つが重なって、ホーローなしの鉄瓶が売れている。同じ「南部鉄器ブーム」という言葉でくくられているが、中身は30年前とまったく別物なのだ。……ややこしい。
南部鉄器の選び方 — 決めるのは4つだけ
1. 用途で選ぶ — 急須か鉄瓶か
ここが最重要である。急須は茶葉を入れて茶を淹れる道具で、内側にはホーロー(ガラス質の釉薬)がかかっている。直火にはかけられず、別で沸かした湯を注いで使う。ホーローがあるので錆びにくく、茶渋も落としやすい。そのかわり鉄は溶け出さない。
鉄瓶は湯を沸かす道具だ。内面はホーローをかけず、鋳肌のまま、あるいは酸化被膜(金気止め)を焼き付けた状態で仕上げてある。直火やIHにかけて水から沸かすと、鉄の一部が湯に移る。茶葉は入れない。淹れるのは急須の仕事である。
紛らわしいのが「鉄瓶兼用急須」というカテゴリで、これは茶こし付きだがホーローがなく、直火にもかけられるという折衷型だ。岩鋳の5型新アラレがこれにあたる。1台で済ませたいならここが答えになる。
2. 容量で選ぶ — 満水時の重さで考える
湯呑1杯を約120mlとすると、0.65Lで4〜5杯、1.2Lで9〜10杯である。ただし鉄瓶の場合、容量選びは「何杯とれるか」より「持ち上げられるか」で決まる。
1L級の鉄瓶は本体だけで1.5〜2kg、満水で2.5〜3kgになる。片手で注ぐには重い。1人分の白湯を朝に沸かすだけなら0.5〜0.8Lで足りるし、来客が多い家や2〜4人で使うなら1〜1.2L、家族全員分をまとめて沸かすなら1.4L以上を見る。大は小を兼ねない道具である。
3. 熱源で選ぶ — IH対応の見分け方
鉄は磁性体なので原理的にはIHで加熱できる。問題は形状で、底面が丸い伝統的な鉄瓶はコイルに反応せず、エラーで止まる。IH対応をうたうモデルは底が意図的に平らに作られ、直径も十分に確保されている。
商品ページでは「直火・IH対応」「100V/200V IH対応」といった表記を探す。「直火専用」と書かれていればIHでは使えないと考えてよい。加熱は中火以下が推奨で、強火にかけると急激な温度変化で鉄が傷む。IHの高出力設定で一気に沸かすのは、この道具に関しては得策ではない。
4. 内側加工で選ぶ — ホーローか鋳肌か
ホーロー加工は、錆びない・手入れが簡単・茶渋が落としやすい。そのかわり鉄と湯が接触しないので鉄分は溶け出さない。急須はほぼ全数がこれである。
鋳肌のままの内面は、湯に鉄が移る一方、水を入れっぱなしにすると錆びる。使うたびに乾かす手間が発生する。手間と引き換えに得られるのが鉄分と、湯の口当たりの変化だ。使い込むと内側に湯垢(白い膜)が付き、これが錆びを抑える保護層になる。この膜を「汚れ」と思って擦り落とすのが、鉄瓶で最もよくある失敗である。落とさなくていい。むしろ育てるものだ。
南部鉄器 急須・鉄瓶 比較一覧表10選
10モデルを一覧にした。価格は2026年8月時点の実売の目安で、色・在庫・セール状況で上下する。仕様はメーカー公表値をもとにしており、仕様変更で変わることがある。購入前に販売ページの最新表記を確認してほしい。
| 順位 | 画像 | 商品名 | 実売目安 | 容量 | 対応熱源 | 内側加工 | 産地 | 購入 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | ![]() |
岩鋳 鉄瓶兼用急須 5型新アラレ 0.65L(12822) | 約1.0〜1.4万円 | 0.65L | 直火・IH | ホーロー無し | 岩手・盛岡 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 2位 | ![]() |
及源 鉄瓶 東雲アラレ 1L | 約1.6〜2.2万円 | 1.0L | 直火・IH | 鋳肌(酸化被膜) | 岩手・奥州 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 3位 | ![]() |
岩鋳 急須 5型アラレ 0.65L(12002) | 約0.8〜1.2万円 | 0.65L | 非対応(注湯専用) | ホーロー | 岩手・盛岡 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 4位 | ![]() |
及富(南部宝生堂)鉄瓶 平丸アラレ 黒 1.2L | 約1.8〜2.5万円 | 1.2L | 直火・IH | 鋳肌(酸化被膜) | 岩手・奥州 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 5位 | ![]() |
池永鉄工 鉄瓶 tetu 1L | 約0.8〜1.3万円 | 1.0L | 直火・IH | 鋳肌 | 大阪(鋳鉄製) | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 6位 | ![]() |
及源 小鉄瓶 八角 0.8L | 約1.3〜1.8万円 | 0.8L | 直火・IH | 鋳肌(酸化被膜) | 岩手・奥州 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 7位 | ![]() |
岩鋳 鉄瓶 平丸アラレ 9型 1.1L | 約1.8〜2.4万円 | 1.1L | 直火 | 鋳肌(酸化被膜) | 岩手・盛岡 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 8位 | ![]() |
及源 鉄瓶 たまご形 0.55L | 約1.2〜1.6万円 | 0.55L | 直火・IH | 鋳肌(酸化被膜) | 岩手・奥州 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 9位 | ![]() |
及源 急須 千草 0.55L | 約0.8〜1.2万円 | 0.55L | 非対応(注湯専用) | ホーロー | 岩手・奥州 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
| 10位 | ![]() |
及富(南部宝生堂)鉄瓶 平丸アラレ 銅蓋 瑠璃 1.2L | 約2.5〜3.0万円 | 1.2L | 直火・IH | 鋳肌(酸化被膜) | 岩手・奥州 | 楽天で見る → / Amazonで見る → / Yahoo!で見る → |
並べると構造が見える。0.8〜1.3万円に急須と小型・普及帯の鉄瓶、1.6〜2.5万円に岩鋳・及源・及富の主力1L級、2.5万円超に銅蓋や色物の意匠モデルが並ぶ。同じ1.2Lでも1.8万円と3万円が共存していて、この差の正体を次のランキングで潰していく。
南部鉄器 急須・鉄瓶おすすめランキング10選
1位 岩鋳 鉄瓶兼用急須 5型新アラレ 0.65L(12822) — 1台で全部やる、が成立する

1位に置いた理由は「用途を最初に決めなくていい」唯一の型だからだ。急須と鉄瓶のどちらを買うべきかで迷う人が最も多く、その迷いをそのまま無効化する。
岩鋳の5型新アラレは、茶こし付きの急須の形をしながら内側にホーローがかかっておらず、直火とIHの両方にかけて水から沸かせる。つまり鉄瓶として白湯を沸かし、茶こしを入れれば煎茶や紅茶も淹れられる。0.65Lは湯呑4〜5杯で、1〜2人の日常使いにちょうど収まる。
岩鋳は1902年創業の盛岡の鋳造所で、南部鉄器の量産と輸出を主導してきたメーカーである。アラレ模様は表面積を増やして湯の対流と放熱を助ける実用的な意匠で、単なる飾りではない。
弱点は手入れの手間だ。ホーローがないぶん、使うたびに湯を捨てて余熱で乾かす必要がある。茶葉を入れたまま放置すると錆びの原因になる。この一手間を許容できるかが判断の分かれ目で、許容できるなら1台で完結する。
2位 及源 鉄瓶 東雲アラレ 1L — 注ぎ口の設計で選ぶ1台

及源鋳造は嘉永5年(1852年)創業、岩手県奥州市の老舗である。東雲アラレは1Lの中型で、直火とIHの両対応。評価軸としては「注ぎやすさ」が突出している。
やや平たい胴の形状は見た目の好みの話ではなく、注湯の挙動に効いている。重心が低く、傾けたときの湯の流れが安定するため、満水に近い状態でも狙った位置に落としやすい。丸胴の鉄瓶で満水時に湯が暴れた経験があるなら、この差は大きい。
外面はカシュー塗料仕上げ。カシューナッツの殻から採れる油分を原料とする塗料で、漆に近い質感と防錆性を得られる。1Lは湯呑8杯前後、コーヒードリップ2〜3杯分に相当し、一般家庭の使用頻度に対して過不足がない。最初の1台として無難に強い。
本体重量は1.5kg前後、満水で2.5kg程度になる。片手で軽く扱える重さではないので、手首に不安があるなら次に挙げる0.8Lクラスを見たほうがいい。
3位 岩鋳 急須 5型アラレ 0.65L(12002) — 手入れゼロで一生使える割り切り

3位は「鉄分をきっぱり諦めた」急須である。内側は全面ホーロー、ステンレス茶こし付き、直火は不可。別で沸かした湯を注いで使う。
この割り切りが効くのは保温性だ。鋳鉄の熱容量は大きく、湯を注いだあとの温度低下が陶器の急須よりゆるやかで、2煎目3煎目を淹れるときに湯の温度が落ちきっていない。煎茶を数煎に分けて飲む人には実利がある。
手入れは水洗いして乾かすだけ。ホーローがあるので錆びの心配がなく、茶渋も落ちる。空焚き乾燥の儀式が要らない。ここが鉄瓶との決定的な差である。鉄分補給には一切ならないが、そもそもお茶を淹れたいだけの人にとって鉄分は目的ではない。
注意点は本体の重さで、0.65Lで1kg前後ある。陶器の急須の感覚で片手で扱うと重い。茶葉を入れっぱなしにしないこと、これだけ守れば十年単位で使える。
4位 及富(南部宝生堂)鉄瓶 平丸アラレ 黒 1.2L — 茶の湯釜の血統で1.2L

及富は嘉永元年(1848年)創業、明治以降は茶の湯釜と鉄瓶を主体としてきた工房である。南部宝生堂はそのブランド名だ。選定理由は容量あたりの完成度で、1.2Lという実用サイズを直火・IH両対応で押さえている。
寸法は幅21×奥行18.5×高さ18.5cm、重量約2kg。平丸という名のとおり胴が横に張った低重心の形で、置いたときの安定感がある。1.2Lは湯呑9〜10杯、来客のある家や家族で使うサイズとして現実的だ。
茶の湯釜を作ってきた工房の鉄瓶は、鋳肌の仕上げに手が入っているという評価が多い。アラレの粒の立ち方と、蓋のおさまりに差が出るという指摘は口コミでもよく見る。ただしこれは実用性能ではなく質感の話なので、数値で確かめられるものではない。
1.2Lを満水にすると総重量は3kgを超える。毎朝これを持ち上げるのが現実的かどうかは、買う前に2Lのペットボトル2本で試してみるといい。想像より重い、というのが正直な感想だった。
5位 池永鉄工 鉄瓶 tetu 1L — 1万円を切る入り口

池永鉄工は大阪の鋳鉄メーカーで、鉄玉や鉄鍋を手広く作っている。tetuシリーズの1L鉄瓶はIH・ガス火対応で1万円前後という価格が最大の評価点だ。
1点だけ先に明記しておく。池永鉄工の製品は「南部鉄器」ではない。南部鉄器は岩手県の盛岡・奥州で作られたものに与えられる産地呼称で、通販ページでは検索対策としてこの語が併記されることがあるが、産地は別である。鋳鉄製の鉄瓶として鉄分が溶け出す点は同じで、機能は変わらない。
選定理由は入り口としての手頃さである。鉄瓶を使い続けられるかどうかは、正直なところ買ってみないとわからない。毎日乾かす手間が続くか、白湯を飲む習慣が定着するか。それを1万円前後で試せる意味は小さくない。
続いたら岩手の工房のものに買い替えればいい。2万円の鉄瓶を買って半年で棚の飾りになるより、1万円で習慣を検証するほうが合理的だと思う。
6位 及源 小鉄瓶 八角 0.8L — 白湯を1人分だけ沸かす人へ

及源の小鉄瓶シリーズの八角形モデル、0.8L。評価軸は「毎日使えるサイズか」で、この一点で1L級より上に来る人がかなりいるはずだ。
0.8Lは満水でも総重量2kg前後に収まる。朝に白湯を1〜2杯沸かす用途では、1.2Lは沸くのが遅く、余った湯の置き場所にも困る。使い切れるサイズであることは、道具としての回転率に直結する。
八角形は末広がりで縁起がよいとされる意匠だが、実用面でも効いていて、面が平らなぶんIHのトッププレートとの接地が素直だ。直火・IH両対応、内面は酸化被膜仕上げなので鉄分は溶け出す。
0.8Lではコーヒーを2〜3人分ドリップするとほぼ使い切りになる。来客が多い家なら1L以上を選んだほうがいい。1人分の白湯習慣を軸にするなら、この容量が正解に近い。
7位 岩鋳 鉄瓶 平丸アラレ 9型 1.1L — 直火専用と引き換えの正統

岩鋳の平丸アラレ9型、1.1L、黒焼付仕上げ。7位に置いた理由は熱源の制約で、これは直火専用である。IHのキッチンでは使えない。
逆に言えば、ガスコンロがある家では制約にならない。IH対応のために底を平らにする設計上の妥協がなく、伝統的な平丸の形をそのまま持っている。南部鉄器の鉄瓶として最も見慣れた姿はこちらで、囲炉裏や火鉢に吊るされてきた系譜がある。
1.1Lは湯呑8〜9杯。岩鋳は受注生産に近い体制の型があり、販売店によっては出荷まで数ヶ月から1年かかる表記が出ることがある。急ぐなら在庫のある店を探すか、他モデルに切り替えたほうが早い。ここは購入前に必ず確認したい。
ガスコンロがあって、見た目に正統さを求めるならこれが本命になる。ただし引っ越し先がIHだった場合に使えなくなるリスクは残る。賃貸で数年内に動く可能性があるなら、IH対応モデルを選んでおくほうが安全だ。
8位 及源 鉄瓶 たまご形 0.55L — 卓上に置ける最小の鉄瓶

及源の0.55Lモデル。選定理由はサイズそのもので、鉄瓶としてはほぼ最小の部類に入る。湯呑4杯分、満水でも総重量1.5kg前後だ。
小さいことの利点は沸きの速さである。1Lを沸かすより明確に短時間で沸き、朝の数分が惜しい時間帯に効く。デスクに置いておける寸法でもあり、在宅で仕事をしながら白湯を飲む使い方と相性がいい。
形はたまご形の名のとおり丸みがあり、アラレ模様のような幾何学的な意匠がない。和室にも洋間のデスクにも馴染む見た目で、南部鉄器の「和」の主張が強すぎると感じる人には収まりがいい。直火・IH両対応。
0.55Lは来客時にはまったく足りない。2台目として小さいものを足す、あるいは完全に個人用と割り切るのがこのサイズの正しい使い方である。
9位 及源 急須 千草 0.55L — 2〜3人分をていねいに淹れる

及源の急須、千草0.55L。内側ホーロー、ステンレス茶こし付き、直火不可。評価点は容量の刻み方で、0.55Lは湯呑4杯強、2〜3人でお茶を飲む場面にちょうど合う。
3位の岩鋳12002が0.65Lなので大差ないように見えるが、この0.1Lの差が「毎回少し余る」か「ちょうど使い切る」かを分ける。急須は淹れ切って使う道具なので、余りが出ると茶葉が湯に浸かったままになる。
千草は細かい線を刻んだ意匠で、アラレの粒立ちより穏やかな印象になる。手入れはホーロー急須なので水洗いのみ。鉄分は溶け出さない。
9位という順位は性能の低さではなく、汎用性の狭さによる。用途が茶を淹れることに限定され、容量も2〜3人分に固定される。用途がそこで固まっている人にとっては、順位は無視して構わない。
10位 及富 鉄瓶 平丸アラレ 銅蓋 瑠璃 1.2L — 実用の外側にある1台

4位で挙げた及富の平丸アラレに、瑠璃色の着色と銅蓋を組み合わせたモデル。1.2L、直火・IH対応。10位に置いたのは、価格差が機能差ではないからである。
黒モデルとの差額は数千円から1万円ほどで、その中身は色と蓋の素材、つまり見た目だ。銅蓋は鉄蓋より軽く、経年で色が変化していくという楽しみがある。瑠璃色は光の当たり方で表情が変わる。沸く湯の性質は黒モデルと変わらない。
それでも10モデルに入れたのは、「毎日目に入る場所に置く道具」は見た目が使用頻度を左右するからだ。キッチンの奥にしまわれた鉄瓶は使われない。出しっぱなしにしたくなる見た目には、実用的な価値がある。
予算3万円で1台に絞るならこれ、という選び方は成立する。ただし「高いほうが鉄分が多く出る」といった話ではない。そこは切り分けて選びたい。
よくある質問
南部鉄器の急須と鉄瓶は何が違いますか?
用途と内側の加工が違う。急須は茶葉を入れて茶を淹れる道具で、内側にホーローがかかっており直火にはかけられない。鉄瓶は水から湯を沸かす道具で、内面は鉄のまま(または酸化被膜)で直火・IHにかけられる。見た目が似ているうえ売り場で並んでいるため混同されやすいが、代用はきかない。急須で湯を沸かすとホーローが傷み、鉄瓶に茶葉を入れると茶渋と錆びの原因になる。
鉄瓶で沸かしたお湯は本当に鉄分補給になりますか?
内面がホーロー加工されていない鉄瓶であれば、湯に鉄分が溶け出すとされる。ただし溶出量は湯の水質・加熱時間・使用歴・湯垢の付き具合で変わり、一定の数値を約束できるものではない。ホーロー加工の急須では鉄と湯が接触しないため鉄分は溶け出さない。鉄分補給が主目的なら、ホーローなしの鉄瓶か、鍋に入れて使う鉄玉のほうが確実だ。貧血の治療や診断が必要な状態であれば、器具に頼らず医療機関で相談してほしい。
IHで使える南部鉄器はどれですか?
底面が平らでIH対応と明記されたモデルに限られる。鉄自体は磁性体なのでIHで加熱できるが、伝統的な丸底の鉄瓶は接地面積が足りずコイルが反応しない。商品ページの「直火・IH対応」「100V/200V対応」という表記を確認すること。急須は原則として直火・IHともに非対応で、沸かした湯を注いで使う。IHで加熱するときは中火以下にとどめ、空焚きや強火の急加熱は避けたい。
錆びさせないコツはありますか?
使い終わったら湯を残さず捨て、余熱で内側の水気を飛ばす。この1点に尽きる。湯を入れっぱなしで一晩置く、洗ったあと濡れたまま蓋を閉める、この2つが錆びの主な原因だ。洗剤は使わず湯でゆすぐ程度でよく、外側は熱いうちに乾いた布で拭く。万一内側に赤錆が出ても、湯を沸かして捨てる作業を数回繰り返し、湯が透明になれば使用を続けられるとされる。不安が残る場合はメーカーに相談したい。
内側琺瑯と鋳肌はどちらを選ぶべきですか?
目的で決まる。お茶を淹れたい・手入れを増やしたくないなら琺瑯(ホーロー)、白湯や湯沸かしで鉄分を狙うなら鋳肌だ。琺瑯は錆びず茶渋も落としやすいが鉄分は出ない。鋳肌は鉄分が溶け出す一方、毎回乾かす手間が発生する。両方欲しいなら岩鋳の鉄瓶兼用急須のような折衷型か、鉄瓶と急須を1台ずつ持つのが現実的な解になる。
今すぐ選ぶならこの3つ
10モデルを並べ直して見えたのは、選択が「鉄分を取りにいくか、手入れを減らすか」の一本の軸にほぼ収束することだった。鋳肌の鉄瓶は鉄分と引き換えに毎日の乾燥作業を要求し、ホーローの急須は手入れの軽さと引き換えに鉄分を諦める。どちらが優れているという話ではなく、続けられるほうを選ぶ話である。
迷ったら岩鋳の鉄瓶兼用急須を選んでおけば、用途を決めきれないまま買っても外さない。手入れを増やしたくないなら岩鋳の急須12002、1L級の本命がほしいなら及源の東雲アラレが着地点になる。
1位 岩鋳 鉄瓶兼用急須 5型新アラレ 0.65L(12822)(0.65L・直火/IH対応・ホーロー無し・約1.0〜1.4万円)
2位 及源 鉄瓶 東雲アラレ 1L(1.0L・直火/IH対応・鋳肌・約1.6〜2.2万円)
3位 岩鋳 急須 5型アラレ 0.65L(12002)(0.65L・注湯専用・ホーロー・約0.8〜1.2万円)
最後にひとつ。鉄瓶を買っても、沸かさない鉄瓶からは鉄分は1mgも出ない。棚に飾られた鉄瓶は、鋳鉄でできた置物である。冬のあいだ毎朝湯を沸かして、春になっても続いていたら、そのとき初めてこの買い物は成功したことになる。僕は今シーズン、その検証の真っ最中だ。

